草地家のある場所
母屋が建って、60年ばかり。
この60年という歳月が長いのか短いのか、私にはよく分からない。
でも、その時間に想いを馳せると、ここでの景色はもっとたくさんのものを見せてくれる。
かつて、みかん畑だった山も、今ではバベの木やヒメコウゾ、トベラ、ノグルミ、立派な野バラたちのものだ。
入る人が減った里山は、竹林にだいぶ押されてきている。
先日、友人がドローンを携えて来てくれた。
空から見る山の景色は、思った以上に、森の中にぽっかりたたずむ草地家、という感じでちょっと笑った。
みなさん、草地家はこんなところにあります。山です。
また、少し角度を変えて見ると、もっと続いていると思っていた山は意外とすぐ道に繋がっていて、あそこを下ったところには田んぼがあるのか、民家も。なんて発見があったり。この場所のイメージが揺さぶられ、更新されていく。不思議で新鮮な気持ち。
土地の境界を教えてもらうため、ここに暮らしていたお爺ちゃんに山を案内してもらったことがある。
「この大きな木までだぞ」
「山を登って、ちょっと谷になってる辺りまで」
「ここは田んぼ二段半」
「この辺りの土地は露風(ついかぜ)と呼ばれているんだ」
いろいろ教えてもらったけれど、ぽつりと言った「覚えてくれてたらいい」の少し寂しげな響きも、きっと忘れない。